![]() |
今西真也
|
©Shinya Imanishi |

会期:2025年9月18日(木)-10月25日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝日休廊)
オープニングレセプション:9月18日(土)17:00 –
nca | nichido contemporary artは今西真也による個展「ひろがってゆくイマージュ」を開催いたします。
今西真也は、東洋哲学、西洋美術、日本美術を軸に、素材とイメージ、視点と距離の関係性を探求し、私たちが共通認識している事柄のズレやあいまいさを可視化しようと試みています。油絵具を何層も塗り重ね、筆致の痕跡を強く残し、削るという行為を繰り返すことで生まれる絵画は、視点や距離、位置によって様々な表情が表れ、各々によって観えるものが異なり、私たちの存在や現実がいかに流動的で変化に富んでいるかを明示しています。
本展では近年発展させている立体作品と、最新の絵画シリーズ「Ties」の小作品のみにフォーカスして構成します。
私たちは日常的に「あのとき」「その瞬間」として、スマートフォンなどで写真を撮り、何らかのかたちで記憶につなぎとめようとする。では、そこに「何かがあった」という気配のようなものを、私たちはどのように知覚しているのだろうか。表面的に見えるものの形状や、あるいはその内側に想像される隠れた何か──私たちは過ぎ去った時間を想像する手がかりを、「見る」こと以外にどのように求めることができるのだろうか。
今西真也のこれまでの作品は、厚く塗り重ねた絵具を削り取るという独自の技法によって特徴づけられている。この「塗る」と「削る」の反復は、物質と行為の痕跡が画面上に複層的に現れる構造を生み出している。表面に見えるものと、その下に隠された層とが同時に存在するこの構造は、視覚的な平面性と時間的な積層という両義性を帯びている。今西は廃墟、稲妻、炎、クラッカーといった、一見身近で儚いモチーフを扱うが、それらは必ずしも再現的に描かれるわけではない。たとえば《Holiday cracker》シリーズでは、実際にクラッカーを発射し、その痕跡をキャンバスに封じ込めるという行為そのものも作品に組み込まれている。
今西の作品に通底しているのは、「見えること」と「見えないこと」、「確かさ」と「あいまいさ」のあいだにある緊張を可視化しようとする意志である。鑑賞者は絵画の前で立ち止まり、視点を変えるたびに現れる新たな形や光の移ろいを通して、知覚の揺らぎを体験する。単なる視覚的美を超えて、時間、行為、記憶の集積として成立しており、それ自体が現代における「見ること」の再定義を促す試みでもあるのだ。
本展では、これまで今西が手がけてきた大型のペインティングとは異なる、いくつかの新たな試みが見られる。たとえば、筒状あるいは四角い缶に樹脂が詰められた作品は、平面と立体の両方を制作する今西にとって、二つの表現領域を接続するものとなっている。私たちは、カップやケースといった容器を見るとき、そこにどれだけの容量が入るかを自然に測る感覚をもっている。これは先天的なものではなく、日々の生活の中で、容器にさまざまなものを満たし、溢れさせ、空にしてきた経験に基づく、私たちの内側から働く「慣性」のようなものである。一見すると、その容量に対して満たされているように見える本作には、実際には内側にその形状に合わせた小さなカンヴァスが仕込まれている。今西にとってこの作品は、絵画でありながら彫刻でもある。容量を測るという慣性に対して、見方の再設定を私たちに促す。そして同時に、絵画を空間的なボリュームをもつものとして、あるいは立体を描き出すものとして組み替えようとする姿勢は、彼がこれまでのペインティングの中で探求してきたテーマとも通じている。
また、ネットに何かが詰められていたような形状の作品が吊るされている。網目から覗き込むと中には何も入っていない。しかし袋状のネットは、確かに何かが中に入れられていたかのような形状のまま、固定されている。彫刻として固められたこのネットが示しているのは、袋として機能するかたちを視覚化することだけでなく、「かつてそこに存在していたもの」の痕跡の在りかを示しているようでもある。
通常、何も入っていない柔らかなネットは、中身がなくなれば萎んでしまう。しかし本作は、内側にあったものの存在感の輪郭を留めるように、その瞬間を形にしている。古典的な彫刻表現にとどまらず、その存在の「瞬間」そのものにかたちを与えようとする試みとも言えるだろう。それは記録や記憶といった体験的なものを超えて、「瞬間」というものが時間の枠組みから外れることで、過去の出来事を今この瞬間に呼び起こす。形づくられることで、すべての出来事は「今、起こっている」ものとなる。これらが今西による「見ること」の新たな試みを私たちに共有するものであると言えるだろう。
大下裕司(大阪中之島美術館学芸員)
今西真也 | Sinya Imanishi
2015年 京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻 ペインティング領域 卒業
主な個展:”奈良ゆかりの現代作家展 01 今西真也「吸って、吐いて」”、奈良県立美術館ギャラリー、奈良(2025) / ”あした、しらない、いき”、MOMENT Contemporary Art Center、奈良(2025) / 個展、anonymous bldg.、東京(2024) / ”きらきらと曖昧”、nca | nichido contemporary art、東京 (2024) / "GLIMMERING"、THE BRIDGE、大阪 (2023) / "かーかーかー"、nca | nichido contemporary art、東京 (2022) / “羊羹とクリーム”、Bijuuギャラリースペース、京都 (2021) / “Light Exposed”、galerie nichido Taipei、台北 (2020) / “Wind, Rain, and your Words”、Art Delight、ソウル (2018) / “ISANATORI”、nca | nichido contemporary art、東京 (2017)
主なグループ展:”ON & OFF THE WALL WORKS – Painting and Sculpture”、伊勢丹新宿店本館6階アートギャラリー、東京(2025) / ”Voices展 ―京都芸術大学大学院修了生選抜展2010-2015―”、京都芸術大学、京都(2025) / ”東 京都 展”、WHAT CAFE、東京(2024) / ”Observation”、YUKIKOMIZUTANI、東京(2024) / ”2023年度 新収蔵品展”、豊田市美術館、愛知(2025) / ”anonymous art project「collective 2024」”、OMOTESANDO CROSSING PARK、東京(2024) / ”カンサイボイス Vol.2”、nca | nichido contemporary art、東京 (2023) / "ヤンオカ vol.2"、MtK Contemporary Art、京都 (2022) / “Up_01”、銀座 蔦屋書店GINZA ATRIUM、東京 (2021) / "カンサイボイス - A journey through painting today-"、nca | nichido contemporary art、東京 (2020) / "シェル美術賞展"、国立新美術館、東京 (2020) / "Kyoto Art Tomorrow 2019 ー京都府新鋭選抜展"、京都文化博物館 本館、京都 (2019) / "untamed vol.1"、COHJU contemporary art、京都 (2019) / "大鬼の住む島"、WAITINGROOM、東京 (2019) / 日台文化交流展覧会マイコレクション展、寺田倉庫、東京 (2017) / ”echo of the echoes”、武渋谷店、東京 (2017) / 群馬青年ビエンナーレ、群馬県立近代美術館 (2017) / "混沌から躍り出る星たち2015 京都造芸術大学 次代のアーティスト展"、スパイラルガーデン、東京 (2015) / “Sensing body”、nca | nichido contemporary art、東京 (2015) / "3331 Art Fair 2015 - Various Collectors’ Prizes -"、3331 アーツ千代田、東京 (2015)
受賞・奨学歴:シェル美術賞2020 グランプリ受賞 / 第31回ホルべインスカラシップ奨学生 (2015) / 3331 Art Fair 2015 ‒Various Collectors' Prizes‒にて田中英雄賞・小松準也賞 (2015) / 京都造形芸術大学大学院修了展大学院賞 (2015)