ヴィック・ムニーズ「Gibi / コミック」

ヴィック・ムニーズ
「Gibi / コミック」

2023.4.14 - 6.3

展覧会関連トークイベント:
『Gibi / コミック』
4/26(水)18:00 – 19:30
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「六本木アートナイト2023」
営業時間:
5/27 (土) 11:00 – 19:00
5/28 (日) 11:00 – 18:00

©Vik Muniz
Press Release

場所:nca | nichido contemporary art
会期:2023年4月14日(金)- 6月3日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝日休廊)
*「六本木アートナイト2023」期間中は開廊します(時間は上記のとおり)
協力:駐日ブラジル大使館

 ヴィック・ムニーズ(Vik Muniz, 1961年~)は、1990年代よりチョコレートやダイヤモンドといった様々な素材を用い、歴史的な報道写真や美術史上の名作を再現することで、イメージの裏側に潜む真実を露わにしてきた。また、事物のサイズに関する特異性に注目し、巨大な地上絵をヘリコプターで撮影した《Pictures of Earthworks》(2006年)から、 MITラボと協働でカメラ・ルシダ(起源を1610年代に持つ、素描補助光学装置)を用いて砂粒に描いた城を、イオン・ビーム(マザー・ボード
1)
作成に用いられる特殊機器)で写しとった文字通りの“砂の城”(《Sand Castles》2014年)まで、想像を遥かに超えた写真世界を現前させてきた。あるいは《Colonies》(2014年)では、癌細胞などを取り出し、紫外線を利用した特殊なプロセスによって、半導体素子・回路基板や伝統的なタペストリー文様に変換・描画した作品をものしている。彼はサイズに対する固定観念を覆し、見えないものを可視化する。それは、写真というメディアあるいは技法が有する制限を無効にし、新たな地平を拓き続けてきたことを意味していよう。
 さて、ムニーズは『ごみアートの奇跡(Waste Land)』(2010年)でも証されたような、現代美術が有する”未来の文化遺産”としての希少性と、それに伴う高い経済的価値
2)
を熟知する一方で、それらが漫画やアニメーションに備わった強力な訴求・伝播力では到底及ばないことを強く認識していたのではなかろうか。彼は、コロナ禍の2021年にナラ・ロースラー画廊(サンパウロ、ブラジル)で、キュビスムをテーマとした新作個展「フォトキュビスム(Fotocubismo)」(会期:2021年10月11日~12月23日)を開催している。ピカソとブラックによって考え出された対象を多視点から捉え、同一平面上に統合・再構築する思考は、さながら現代における3DCG (コンピュータ内の3次元空間に在る立体物を、平面上の情報に変換する技術)の先取りといっても過言ではなかろう。
 他方、今回nca|nichido contemporary artでの個展「Gibi / コミック(Gibiは、ポルトガル語で漫画)」(会期:2023年4月14日~6月3日)において発表される新作は、ディズニーの漫画やアニメーションから想を得ている。ムニーズは、その意図を「私にとって、ディズニーは、人類の文化におけるアメリカ最大の貢献者である。ネズミや怪物、箒や燭台に命を与えることで、二つの世界大戦間に蔓延していた表向きの実用主義により抑圧された、原始的で幻想的なアニミズム
3)
を救い出した」
4)
と述べている。ここで彼が主に触れているのは、映画『ファンタジア』(1940年)の一編「魔法使いの弟子」
5)
であろう。”魔法使いの弟子”に扮したミッキーマウスが、拙い魔法で屋敷を水没させるエピソードは、日本古来の八百万
やおよろず
の神
6)
付喪神
つくもがみ

7)
を思い起こさせる。
 更に彼は、ウォルト・ディズニーの創造性についても「この男は、あらゆる技術的手段の魔法だけではなく、人間の思考、イメージ、アイデア、感情の最も秘密の糸まで知っているようだ。彼は、非常に純粋で最も原始的な深みのある領域のどこかで創造している。そこでは、私たちは皆、自然の子なのだ」
8)
と、『戦艦ポチョムキン』(1925年)などで知られる旧ソビエト連邦の映画監督エイゼンシュテイン(Sergei Mikhailovich Eisenstein, 1898~1948年)の言葉を引用している。ちなみにエイゼンシュテインは、複数のショットによる衝突や葛藤が観念を生成する「モンタージュ理論」
9)
実践によって一時代を築いている。
 多神教にして、《伴大納言絵詞
ばんだいなごんえことば
》(12世紀初頭)や《鳥獣戯画》(12~13世紀)
10)
、更には『塙凹内名刀之巻』(1917年)
11)
といった作品に代表される漫画・アニメーション出処
いづるところ
・日本を、ディズニー・シリーズ作品の発表場所に選んだムニーズの慧眼と戦略性には驚きを禁じ得ない。
 ロシアのウクライナへの軍事進攻以来、世界は二つに分断され新東西冷戦時代へと突入しつつある。こうした情勢に鑑みれば、ムニーズ作品が一神教的な価値観に基づく二項対立から脱却し、相互理解による多様な思考の受容を示唆しているように思えてならない。
 同時に新型コロナウイルスの両義性(環境哲学者のティモシー・モートン(Timothy Bloxam Morton, 1968年~)は、「(人間を宿主とする)友であるかもしれないし、殺人鬼であるかもしれない」
12)
と指摘)に着目し、写真の定義・機能が「かつて、そこで起こっていたことの記録」から、SNSやデバイスの普及・発達により「今、ここで起こっていることの発信・共有」へと変わりつつある現在、ムニーズは現代美術という(ある種の)制度内で、「過去の記録」と「現在進行形の共有」に跨る新たな可能性を探求しているともいえよう。

宮津大輔(アートコレクター / 横浜美術大学教授)


1)システムの中核となる電子回路基板。
2)ムニーズの故郷であるリオデジャネイロ郊外にある、世界最大級のごみ処分場ジャウジン・グラマーショで集めたガラクタを使って、「カタドール」(リサイクル可能な素材を拾い集める人々)達の巨大ポートレイトを制作。それらの作品をオークションで販売し、収益金の全額をカタドールに寄付することにより、彼らの自立をサポートする活動を描いたドキュメンタリー映画である。
3)生物、無機物を問わず、あらゆるものに霊魂、あるいは霊が宿っているという考え方である。英国の人類学者エドワード・バーネット・タイラー(Sir Edward Burnett Tylor, 1832~1917年)が、その著書『原始文化』(1871年)内で使用・定着させた。
4)引用:ヴィック・ムニーズによる「Gibi / コミック」展ステートメント(2023年3月)。
5)『ファンタジア』は、レオポルド・ストコフスキー(Leopold Antoni Stanislaw Boleslawowicz Stokowski, 1882~1977年)指揮、フィラデルフィア管弦楽団の演奏による8編の物語で構成されたディズニーによる長編アニメーション映画である。
「交響詩『魔法使いの弟子』」は、フランスの作曲家ポール・デュカス(Paul Abraham Dukas, 1865~1935年)が1897年に手掛けた管弦楽曲である。
6)森羅万象に神の発現を認める、古代日本における神についての観念を表す言葉。
7)長い年月を経た道具などに、神や精霊などが宿ったもの。
8)参考:Sergei Eisenstein ”On Disney”, Seagull Books; New edition, 2017
9)ソ連のモンタージュ理論を大まかにくくると、材料としての断片的画面をどのように組織化するか、組織化した一連の画面はどのように観客へ作用するのかといった論点が共通していたといえるだろう。
引用:「モンタージュ理論」日本大百科全書(ニッポニカ)
https://kotobank.jp/word/モンタージュ理論-1601507
2023年3月10日閲覧
10)《伴大納言絵詞》では、異なる時間を一つの構図の中に描き込むことで時間の経過を表す「異時同図法」が用いられていた。また、《鳥獣戯画》においては、一部場面で現在の漫画と類似した手法が認められることから、「日本最古の漫画」と称されている。
11)1917年6月30日に公開された、日本に現存する最古のアニメーション作品として知られており、『なまくら刀』と通称される。1917年は、現代美術の濫觴
らんしょう
といわれるマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp, 1887~1968年)の《泉(Fontaine)》が製作された年でもある。
12)「新型コロナは『敵』ではない。哲学者が説くウイルスとの『共生』」Forbes JAPAN、2020年4月18日
https://forbesjapan.com/articles/detail/33797
2023年3月10日閲覧


<作家略歴>
ヴィック・ムニーズ
1961年サンパウロ生まれ。現在ニューヨークとリオデジャネイロを拠点に制作活動中。
近年の主な個展(美術館):
BYU Museum of Art プロボ、アメリカ (2021), Museo Universidad de Navarra パンプローナ、スペイン (2020),
21er Haus、ウィーン、オーストリア(2019)、Palazzo Cini、ベニス、イタリア(2017)、Museo de Arte Contemporáneo de Monterrey、モンテレイ、メキシコ(2017)、Maison Européenne de la Photographie、パリ、フランス(2016)、Mauritshuis Museum、デン・ハーグ 、オランダ(2016)、High Museum of Art、アトランタ、アメリカ(2016)、Lowe Art Museum、マイアミ、アメリカ(2015)、Taubman Museum of Art、バージニア、アメリカ(2015)、Museo de La Universidad Tres de Febrero、ブエノスアイレス、アルゼンチン(2015)、Musée d’Art Moderne de Saint-Étienne Métropole、サン=テティエンヌ、フランス(2015)、Museum of Contemporary Art、バージニア、アメリカ(2014)、Museo de Arte Contemporaneo Lima、リマ、ペルー(2014)、Tel Aviv Museum of Art、テル・アヴィヴ、イスラエル(2014)、Centro de Arte Contemporaneo de Quito、キト、アクアドル(2014)、Santander Cultural、ポルト・アレグレ、ブラジル(2014)、Long Museum、上海、中国(2014)、Museo Banco de la República、ボゴタ、コロンビア(2013)、Centro de Arte Contemporánea de Málaga、マラガ、スペイン(2012)、Mint Museum Uptown、ノースカロライナ、アメリカ(2012)、Museu Colecção Berardo、リスボン、ポルトガル(2011)、Espaço Cultural Contemporâneo – ECCO、ブラジリア、ブラジル(2011)、Instituto Tomie Ohtake、サンパウロ、ブラジル(2011)、Jeonbuk Museum of Art、Gana Art Center、ソウル、韓国(2011) 他,世界中の美術館やギャラリーで個展を開催、国内外の主要な美術館に収蔵されています。
また、ハーバード大学、イェール大学、TED Talks、世界経済フォーラム、ニューヨーク近代美術館、ボストン美術館、プリンストン大学などでゲストスピーカーとして講演も行っており、 “Reflex: A Vik Muniz Primer (Aperture, 2005)”など多数の著書も出版されています。 リオデジャネイロの貧民街や埋立地での活動を描いたドキュメンタリー映画「Waste Land」は、2010年のアカデミー賞にノミネートされました。
また、ブラジルと米国で教育や社会プロジェクトにも携わっており、最近ではヒューマンズ・ライト・ウォッチや、アマゾンの熱帯雨林の保護に取り組むブラジルの小規模な非営利団体イマゾンなど、多くの人道的キャンペーンに一貫して貢献しています。

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