Identity XVII - 拡張家族 - curated by Eriko Kimura

Identity XVII - 拡張家族 - curated by Eriko Kimura

2021 7.2 - 8.7

次回開催の展覧会 | 7月2日(金)~

I Know The Pilot | 2020 | 21 x 31 cm, mixed media | ©Renuka Rajiv
Press Release

Identity XVII - 拡張家族 | Beyond Family and Species
curated by Eriko Kimura

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2021年7月2日(金)-8月7日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
出展アーティスト: 本間 メイ / Mei HOMMA | 影山 萌子 / Moeko KAGEYAMA
レーヌカ・ラジーヴ / Renuka RAJIV | 関 健作 / Kensaku SEKI
キュレーター: 木村絵理子 / 横浜美術館主任学芸員
*協力:MARUEIDO JAPAN

この度、nca | nichido contemporary artは、「Identity XVII - curated by Eriko Kimura」展を開催いたします。毎年ゲストキュレーターを迎え、さまざまな視点から”Identity”というテーマについて考察する同展、今年は横浜美術館主任学芸員、木村絵理子氏に企画をお願いしました。


拡張家族 | Beyond Family and Species

■趣旨
今、わたしたちにとって家族という概念は、どのような意味を持つ言葉として存在しているでしょうか。親と子、兄弟姉妹といった血縁関係や、配偶者や養子のように制度によって規定される関係のことなのか。あるいは様々な理由から生活を共にする関係ことなのか。いや、そもそも人間同士でしか家族という関係は結べないものなのでしょうか。
近代的な法制度や、医療や科学技術の発達は、この家族という概念に厳密さを与え、細かく分類することに寄与してきました。一方で、そこから排除された分類困難な家族的繋がりをもった人間同士の関係性は、グラデーションのように豊かな広がりを持っています。世界では今、制度と現実との間に横たわる矛盾を解消すべく、ジェンダーやセクシュアリティの多様性を認めて、家族をめぐる宗教的解釈や法整備を進めようとする動きが徐々に始まりつつありますが、複雑にもつれあった価値観を解きほぐすのは容易なことではありません。
本展で紹介する4名のアーティストたちは、アジアの様々な土地に根差しつつ、社会の中で見えにくくなっていた事柄に目を向けて、既成の定義を超えた人間同士、あるいは人とそれ以外の存在との関係性に言及しようとしています。インドネシアと日本で妊娠と出産についてのリサーチを重ねる本間メイ。ブータンに暮らす若者たちのコミュニティを取材する関健作。インドにおいてジェンダーやセクシュアリティの観点から多様な人間の生活に目を向けるレーヌカ・ラジーヴ。そして東京の都心部で人間や動植物といった種の概念を超える存在を描き出そうとする影山萌子。彼らの作品からは、既成の定義を解体した後に、新たな境界線を引き直すのではなく、概念を拡張し、超えていこうとする態度が表れているのです。

■作家と作品について
バンドゥン(インドネシア)と東京を拠点に活動する本間メイは、妊娠と出産という人間にとってもっとも根源的な活動でありながら、女性の身体に生じている現象が、社会的にあまり共有されていない状況に目を向けます。果物が並ぶ写真にはそれぞれ、成長する胎児と、誕生に向けて徐々に開いていく子宮口の大きさがなぞらえられており、経験者だけが実感してきた妊娠・出産のひとつの物理的な感覚が再現されています。そして映像作品では、インドネシアの伝統的産婆であるドゥクン・バイへのインタビューを起点に、近代医療の影で見過ごされてきた女性のメンタルや身体的負荷についてクローズアップすることで、物理的事象と精神的な動きとが対照的に示され、神話的・抽象的語りとは異なる次元での、実体のある妊娠・出産の現実が語られていきます。

写真家の関健作は、青年海外協力隊としてブータンに赴き、体育教師を務めた経験を持っています。その後、ブータンを再訪した関は、かつての教え子たちが高い失業率のために満足な職を得られず、住む家もない現状に置かれていることを目の当たりにしました。保守的な社会の中でないがしろにされるこうした若者たちは、行き場のない思いをヒップホップやグラフィティに託して、仲間と共に生活しています。関は、伝統的価値観の枠組みからこぼれ落ちた若者たちに寄り添い、彼らがストリートのカルチャーを拠り所に、独自のコミュニティを築いて、希望を見出していこうとする様を写真に収めていくのです。

レーヌカ・ラジーヴは、バンガロール(インド)を拠点に、自身を取り巻くさまざまな人々の生活と、多様性の中から導き出された幻想的・象徴的イメージとを、ドローイングや布を使って表現しています。画面いっぱいに描かれる親密な関係にある人と過ごす艶めかしい時間。そしてジェンダーやセクシュアリティを超えて、さらには人間という種の身体的特徴からも自由な霊性とも呼ぶべき存在が躍動する作品世界。そこにはおそらく、現実社会の厳しさや矛盾に対して向けられるのとは対照的な、自由な内的世界が広がっています。

 影山萌子は、自然と人工物とが入り混じった世界に、ときおり二枚貝などの水棲生物が登場する不条理とも呼ぶべき風景画を描きます。都心部に生まれ育った影山にとって、首都高速や高層ビル群に囲まれた都会の景色と、樹木に覆われた山間部の景色との間には、何ら対立する感覚はなく、境界線や差異の曖昧な地続きの風景として見えていると語ります。洞窟の中で団欒するような何か、積み上がるクッションのようなもの、四つ足で歩行する何者かも、影山作品においては、もはや人間と水棲生物といった種の区別のみならず、有機物と無機物の違いさえも超えた生態系の構成物として、等しく存在しているのです。

木村絵理子
(横浜美術館主任学芸員)

木村絵理子
横浜美術館・主任学芸員
2005年展から横浜トリエンナーレに携わり、2020年展では企画統括を務める。近年の主な展覧会企画に、”HANRAN: 20th-Century Japanese Photography”(National Gallery of Canada、2019)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009-10)ほか。この他、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011)など。

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