坂本和也:「Spring ephemeral - スプリングエフェメラル」

坂本和也:「Spring ephemeral - スプリングエフェメラル」

2020 3.6 - 4.7

レセプション:3月6日(金)18:00 – 20:00

坂本和也個展「Spring ephemeral」は、本日4月7日[火]を最終日とさせていただきます。
皆様にはご不便をおかけいたしますことをお詫び申し上げます。

©坂本和也
Press Release

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2020年3月6日(金)-4月7日(火)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
レセプション:3月6日(金)18:00 – 20:00


 この度、nca | nichido contemporary artは坂本和也による新作個展「Spring ephemeral」を開催いたします。
坂本和也はこれまで自身の趣味である水草の飼育(アクアリウム)を通して、生態系の構成要素のなかに現代の社会環境との類似性をみたことから、植物をモチーフにして物事の内面を表そうと探求してきました。
反復と増殖を繰り返しながら綿密に描かれる多種多様の植物は、生命を維持するために変容を繰り返す進化の過程を描いているようです。本展では、春先の短い期間に開花し、夏に葉をつけたあとは地中で過ごす植物群、「スプリングエフェメラル」をモチーフにしています。他の植物との競争を避けるためにライフサイクルに時間差をつけることで繁殖、生存しようとするこれらの花々に焦点をあて、自己の潜在意識や精神状態、葛藤を可視化させようと試みます。


潜行と上昇

 青い地塗りのうえに、何種類もの緑色の絵具を一本の筆だけで少しずつ積み重ねるタッチのパターンの違いで、幾つもの水草を描き分けながら画面を覆ってゆく。坂本和也がこれまで十年近くにわたって取り組んできたアクアリウムのなかの水草という題材は、なるほど比喩的にではあるが、水中に身を置きその息苦しさに耐える画家のからだに、絵具の水草がゆらゆらと漂いながらまとわりついている光景を想起させる。そのとき坂本はキャンバスに正対しながら同時にキャンバスのなかに潜ってもいるわけだが、しかし一方でその作業そのものは、たった今置いたタッチのきわを一筆一筆手探りで拡充しながらキャンバスの隅々まで踏破していく、地図制作者のそれともまた重なって見える。たちどころにキャンバスは地表面へと置きかわり、わたしたちの視線はこのランドアートを見渡せる周回軌道上まで一気にズームアウトする。水槽と人工衛星との間で没入しながら突き放して進み続ける坂本の筆は、キャンバスの端に行き当たって、ようやく停止する。
 次に坂本が新たな題材として選んだのは、落葉広葉樹林の林床で早春に姿を見せる地味な草本であった。地中の根茎や球根に栄養をたくわえ、春先のわずかな期間だけ地上に出て花を咲かせ、ほどなく枯れて残りの月日を再び地中で過ごす、このような草花を総称してスプリング・エフェメラルと呼ぶ。とはいえここでの坂本の目的が図鑑や標本作りでないことは、アクアリウムのシリーズと同様に明らかだ。やはり一本の筆で執拗に繰り返されるタッチは、たしかに何種類もの丈の低い草本らしきものを擬してはいる。ただしその描き分けは各草本の形態上の特徴の描出に寄与しているわけではなく、ただタッチの積み重ね方の選択肢を増やすことにのみ捧げられている。
 表皮のようにキャンバスを端々まで覆い尽くした微細な筆致は、ともすればその画面の仕上がり具合を手工芸的な出来へと転化しているかのようにも見える。聞けば坂本は、タッチに息苦しいほどに渦巻く自身の感情を乗せることをずっと嫌悪してきた。ところがその実キャンバスの表皮の裏のじめじめした場所にはいたるところに情念を詰め込んだ根茎や球根が隠され、埋められ、沈められているのだ。そうと気がつけばほころびた表皮のあちこちからその情念が漏れ出ていたことにも自ずと目が向く。高高度から瞬く間に地表へと降下しては息を止めて水中や地中を潜航し、再び上昇するという往復運動をひたすらに繰り返す坂本の目と手は、しかしおそらくそうすることによってのみ、自らの情動をコントロールしながら絵画の技術へと変換することを可能にしているのだろう。

愛知県美術館 学芸員
副田 一穂

坂本和也(さかもと かずや)
1985年 鳥取県生まれ
2012年 名古屋芸術大学 美術学部洋画2コース 卒業
2014年 名古屋芸術大学大学院美術研究科美術専攻同時代表現研究領域 修了
2017-18年 文化庁海外派遣制度にて台北に派遣
主な個展:galerie nichido Taipei, 台北 (2018) / “Landscape gardening”,米子市美術館, 鳥取(2017) / “Between Breaths”, nca | nichido contemporary art, 東京(2016) / ALA Project No9” Kazuya Sakamoto", ART LAB AICHI, 愛知 (2012)
主なグループ展:"nca new generation project – Sensing Body", nca | nichido contemporary art, 東京(2015) / "豊穣なるもの 現代美術in豊川" , 豊川市桜ヶ丘ミュージアム, 愛知(2015) / "アーツ・チャレンジ2015", 愛知芸術文化センター, 愛知(2015) / "Some Like It Witty", Gallery EXIT, 香港 他

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