タワン・ワトゥヤ:クイーン

タワン・ワトゥヤ:クイーン

2019 3.1-3.30

オープニングレセプション及びカタログ「TAWAN WATTUYA 」刊行記念パーティー:3月1日(金)18:00 – 20:00
*オープニングに合わせて作家も来日いたします。

"Miss Uganda", 2018, 57x38.5 cm, watercolor on paper ©Tawan Wattuya
Press Release

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2019年3月1日(金) – 3月30日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
オープニングレセプション及びカタログ「TAWAN WATTUYA 」刊行記念パーティー:3月1日(金)18:00 – 20:00 *オープニングに合わせて作家も来日いたします。

この度、nca | nichido contemporary art (以下nca)は、タイ人アーティスト、タワン・ワトゥヤの新作個展、「Queen / クィーン」を開催いたします。タワン・ワトゥヤは様々な人たちのポートレートや動物を描いています。ここ数年、タワンはあえてコントロールの困難な水彩を使って作品に表します。描かれる被写体は政治家やメディアで取り上げられている人物、制服を着た人たちなど多岐にわたります。描かれた美しいあるいは凛々しい人物たちは画面に近づくと一変、水彩独特のぼかし、にじみがあいまって人物の顔が歪んでいるかのようにも見え、笑顔に隠された人々の内面や裏側がみえてくるようです。タワンは肖像画を通し、自身が問題視している自国タイで続く政治的混乱や民族間の紛争、社会的ヒエラルキー、外見の重要性などを鋭く批判し、現代人が持つ固定観念や矛盾を投げかけます。本展で、タワンは世界各国で開催されてきた「ミス・コンテスト」をリサーチし、”クイーン”のポートレートを描きます。


タワン・ワトゥヤのミス・コン
笠原美智子(石橋財団ブリヂストン美術館副館長)

 躍動著しいタイの現代アート。タイの新進気鋭の作家・タワン・ワトゥヤの、ncaでの初個展である。
タワン・ワトゥヤは色鮮やかな水彩の肖像画で知られている。彼が描くのは、プーチンやトランプ、金正恩などの世界の政治家の顔、タイの学校制服を着た学生たち、軍人たち、犬や豚や猿などの身近な動物たち等である。マスメディアに掲載された写真をベースに、ひとりずつ特徴を的確に捉えた胸像が、同型のそれほど大きくない紙に描かれて、前後左右に整然と並べられる。時に手軽に描いた似顔絵風、時に証明写真のパロディのように仕上げられている。色鮮やかでユーモラス、一見、ポップで軽やかに見える。しかしじっと見ていると、じわじわと怖くなるのである。
タワン・ワトゥヤの作品に見え隠れするのは、言ってみれば、いまだ根深い男性優位社会にグローバリゼーションと地域社会、市場経済が産み出している現代社会の負の諸相なのではないか。

 タワン・ワトゥヤの新作のテーマはミスコンである。彼はすでに、タイのミスコンの歴代優勝者を描いたシリーズを発表している。外見を重視するタイではミスコンが盛んだという。旧作ではタイという地域社会における女性の外観の「美」によるヒエラルキーの問題を描き出した。新作では、「国際的」なミスコンの優勝者の胸像を壁一面に並べている。それぞれがほっそりとした面長な顔に豊かな髪の毛、意匠を凝らしたティアラを付け、多くは赤い口紅をつけて白い歯が少し見えるくらいに開けて口角をあげ、鼻筋が通りぱっちりとした目は優しげに前を見つめている。肌や眼や髪の色、骨格の作りで、アジア系、アフリカ系、北欧系、ラテン系、アングロサクソン系、ゲルマン系等々、彼女たちが様々な国を代表していることが推察される。

 ミスコンの問題についてはすでに議論が尽くされているだろう。言うまでもなくミスコンとは、未婚女性に限定して、女性の外観によって女性を序列化するイベントであり、ミスコンを発想する男性優位社会の社会構造の性差別性を象徴的に示している。ミスコンを巡っては、このような構造に未だに無自覚で脳天気な男尊女卑思想の輩は問題外にしても、主催者も参加者も、そしてそれを消費する一般の人々も、程度の差こそあれミスコンを支える差別の構造に気づいてはいるのだろう。しかし、それが消費者によって受け入れられてビジネスとして富を生み、そこに参加者が金銭や就労機会の拡大などのメリットを認める限り、水着審査の廃止などの改変を施しながら、営々と続けられているのが現実である。

 タワン・ワトゥヤの作品は、わたしたちが実際にミスコンに触れた時に抱く違和感やもやもやを可視化してみせる。世界の様々な国や地域の個性豊かな美を代表しているはずの彼女たちは、しかし驚くほど似ている。肌や眼や髪の色、骨格の作りが違い、時には民族的な装飾を付けていても、その表情やスタイル、髪型や笑い方、化粧の仕方まで、彼女たちは一律で、いわばハリウッドが営々と作り上げたアメリカ的な美のスタンダードを体現している。言うまでもなくヘテロセクシュアルな白人男性による「美」の基準である。そして一律なのは外観だけではない。おりしも昨年、タイのバンコクで開催された「ミス・ユニバース2018」大会では、トランスジェンダーの参加が話題になってセクシュアリティの多様性の一歩を踏み出したが、その一方で、アメリカ代表によるベトナムやカンボジア代表の英語が「おかしい」と揶揄するSNSが配信されて炎上した。このあまりに幼稚な発言は、しかし発した本人にとっては迂闊としかいえないもので、アメリカン・スタンダードが席巻する現場の本音が漏れたに過ぎないのだろう。

タワン・ワトゥヤの作品は、彼女たちが意識的であるか否かは別として、自らにそぐわないスタンダードを必死で身につけて小さなチャンスに賭けようとする、若い女性たちの悲哀と滑稽さをも伝えている。そしてそんな彼女たちを巧みに操って一大イベントに仕立て上げる側と、高みの見物をきめこむ消費者の強欲さと醜悪さ、共に共犯関係によるミスコンの構造的問題を戯画化している。これはひとりミスコンの問題だけではない、ミスコンに象徴される構造的問題がいまだに根強くはびこる、世界の縮図を表している。

タワン・ワトゥヤ Tawan Wattuya
1973年バンコク(タイ)生まれ。現在バンコク在住
B.F.A. in Painting, Silpakorn University, Bangkok, Thailand 卒業
主な個展:“MENAGERIE” SUNY ONEONTA University, Oneonta,ニューヨーク (2019) / “Rogues Gallery : Monsters, Villains & Hellbent Politicians” The Lodge Gallery, ニューヨーク (2018) / “Out of The Frying Pan, into The Fire” ARTIST+RUN バンコク(2018) / “The Insignificant War” Diginner gallery workshop, 東京 (2018/2017) / “Reckless” Toot Yung Art Center, Mae Rim チェンマイ (2018) / “When water Beats” ART&PLUS, パリ (2015) / “Like a Virgin” Alliance Francaise de Brisbane, ブリスべン (2014) / “ Dek Oey Dek Dee” Toot Yung Art Centerバンコク (2014)
“Tii Tai Krua” The Art Center Chulalongkorn University,バンコク (2013) / “Fading Nostalgia” Gallery Yang, 798 art zone, 北京 (2012) / “Superheroes and the Unreachable Fantasies”, DCA Gallery ブリュッセル (2011)
主なグループ展:“Crossover Pattani” Pattani art space & Eh gallery , パッタニ―、タイ (2019) / “AFTER EDEN” Harrick Galleryロンドン (2018)
“The Blog of Choice” Associazione Culturale Art’ A.V.A. タ―ラント、イタリア (2018) / “galerie nichido Taipei Winter Group Show” galerie nichido Taipei, 台北 (2018) / “small works: an endless journey” nca | nichido contemporary art 東京 (2018) / “Farewell : The art Center’s Acknowledgment” The Art Center Chula バンコク (2017) / “Jet’ aime… moi non plus” nca | nichido contemporary art , 東京 (2017) / “Funayama collection” Fuma Contemporary 東京 (2017) / “A Journey Far From Home” Galerie Nichido Taipei 台北 (2017) / “Jura- Okinawa” Galerie Du Sauvage , Jura,スイス (2017) / “Totem” Saatchi Gallery,ロンドン (2017) / “Head or Tails?” Sundaram Tagore Gallery,ニューヨーク (2017) / “PRUDENTIAL EYE AWARD” Contemporary Asian Art, ArtScience Museum, シンガポール (2016) / “Bare” Hof art バンコク (2016) /
“a peculiar nature” The Lodge gallery ニューヨーク (2016) / “Tracing the past” nca | nichido contemporary art 東京 (2016) / “Crossover” Rycom Anthropology, Koza, 沖縄 (2016) 他


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