リュウ・ジーホン「Parking / パーキング」

リュウ・ジーホン
「Parking / パーキング」

2026.10.31 - 12.5

Upcoming:2026.10.31~

©Chihhung Liu
Press Release

会期:2026年10月31日(土)- 2026年12月5日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝日休廊)*11月1日(日)と11月8日(日)は営業いたします
オープニングレセプション:10月31日(土)17:00 ~ 19:00 *作家が在廊いたします

nca | nichido contemporary artはリュウ・ジーホンによる新作個展、「Parking / パーキング」を開催いたします。
リュウは、文学、詩、哲学などからインスピレーションを得ながら、旅先で体験する出来事や風景が日常の偶然性と絡み合う、独特で表現豊かな表現を確立しています。 地元の人々と交流を重ね、フィールドリサーチを通して、その土地に息づく音や時間、温度、感情といった要素を異なる次元で枠組み化し、日常のありふれた風景を具象的に描きながら、その背後にある目には見えない記憶や気配を浮かび上がらせようと試みます。本展タイトル、パーキングはイリット・ロゴフの境界の滑空という概念に着想を得ており、行動としても空間としても、「駐車」という行為が持つ過渡的、かつ一時的な性質を応用しています。これらの要素を固定されない流動的な場へと変容させ、静と動の絶え間ない相互作用の中で知覚を再構築しようと試みます。本展のために制作した、リュウの最新作のペインティングとインスタレーションを発表します。



渡り鳥とバナナと「Parking」

栖来ひかり(文筆家)


 リュウ・ジーホン(劉致宏)の山道を描いた作品をみて、ジーホンはきっとバイクに乗っているだろうと考えた。わたしはふだんバイクに乗っているわけではない。しかし台北郊外の山道をバイクで走ったなら、肌に感じる風の色はきっとこんなふうだろうと思ったのである。
 展覧会に出す絵を観るため、淡水河に近いジーホンのスタジオを訪れた。駅まで迎えに来てくれたジーホンはやっぱりバイクに跨っており、予想が当たって嬉しくなった。
 ジーホンの作品を初めて意識したのは第一回馬祖ビエンナーレの《漁火》であった。馬祖諸島は中国まで最短約10キロ。かつて国共内戦の最前線で、長く軍事的緊張にさらされてきた台湾の離島である。真っ暗な会場でチカチカっと照明がまたたくと、床に砂でかたどられた黄魚[ホァンユィ]の群れが浮かびあがり、腹を見せながらピアノの周りを泳ぎまわっているみたいだった。かつて黄魚は、春になると産卵のため馬祖の海へ群れをなしてやってきた。漁師たちは暗い海の底から立ちあがる魚の声に耳を澄まし、その居場所を探り当てたという。けれど、もう黄魚はやってこない。光のなかの黄魚の群れは一瞬で闇へと沈み、漁師のレム睡眠にうかびあがる白昼夢のようであった。
ジーホンの作品はいつも、そうやって目に見えないものを見せてくれる。
ジーホンの描くバナナもそうである。台湾が日本の植民地であったころ、台湾のバナナは青いうちに収穫され、汽車と船で日本の「内地」へ運ばれた。門司港では室[むろ]で追熟させて市場に出したが、輸送中に熟れすぎたものは港で啖呵売[タンカバイ]された。これが名物「バナナの叩き売り」の始まりである。
「台湾人の僕が描いたバナナが海をわたり、日本に運ばれて買われる。なんだか歴史をなぞっているみたいでしょ」とジーホンが笑った。
 じゃあ《Parking》にはどんなものが「見える化」されてるの?
 「車とかバイクが好きなんだ」
たしかに。キャンバスが並んでいるその隣にはおもちゃのトミカの箱が積んである。ジーホンのスタジオは古いアパートの四階で、ベランダから淡水河が見渡せた。眼下にはもくもくと木々が生い茂り、その向こうを電車が走る。さらに向こうに広々とした河面、その奥に横たわる観音山。地層のような幾重にかさなる風景を、真っ赤な毛糸であやとりするように関渡大橋が横切っている。
日本やヨーロッパなど、あちこちでアーティスト・イン・レジデンスを経験してきたジーホンの話をきく。ちかごろは南房総、三浦半島、伊豆半島で漁師の晴れ着として作られてきた万祝[まいわい]を調べているという。なんだか、渡り鳥みたいだ。そういえば、日本で夏を過ごしたツバメのなかには冬になるとベトナムなど東南アジアへ渡るものがいて、台湾でひと休みするのを思い出す。ジーホンは、今回の展覧会のために描いた絵を見せてくれる。関渡駅前に停まる車、並んだドミノピザのスクーターのおしり、レトロなバイクの一部。
「駐車場って、一時的な場所なんだよ」
たしかに、車はそこに停まっているが、次の瞬間にいなくなるかもしれない。車はもう戻ってこないかもしれないし、毎日、決まった時間に戻ってくるかもしれない。停まってはいても、誰もがどこかに行く途中である。まちもそうだ。古いアパートが取り壊されたと思ったら、いつの間にか駐車場になっている、でもその駐車場だって次に新しいビルが建つまでの「つなぎ」であったりする。
「駐車って、その場所を一時的に占拠することでもあるよね」
そう聞いて、台湾のこれまでを考える。海の向こうからいろんな人びとが台湾へやってきた。スペイン人やオランダ人、清朝人、日本人。支配したひとの名前が変われば制度や言葉は入れかわり、建物はたち、壊され或いは残された。
ところで、ジーホンは滋賀県の信楽にもいたという。陶芸作品もつくるとは、知らなかった。もともとエッチングから制作をはじめたジーホンは、今やさまざまなメディウムを使いこなしている。
「信楽の大きな駐車場で、薄く焼いた丸や四角のセラミックを等間隔に設置してランドアートをつくった。その写真も展示するよ」
 車がやってきてタイヤが薄い陶器を踏む。微かな音をきらきらと立て小さなひびが入り割れるだろう。
「車が上を通るたび、だんだん細かくなって、最後には絨毯みたいになって、すごくきれいなんだ」
欠片はさらに細かくなり、雨が降る。誰かがその上を歩く。またタイヤに踏みしめられる。そうして砕かれた陶器の欠片は砂のように元の駐車場と混ざりあいながらだんだんこの土地のただの風景になっていくのを想像していると、空け放したベランダのほうからバリバリと段ボールを叩くような爆音が響いてきて、わたしたちは身体をこわばらせた。ベランダにちかづいて空を見上げれば、何機もの軍用ヘリコプターが隊列を組んで海のほうへと向かっている。
「ああ、もうすぐ中華民国の国慶日だっけね」
そう、毎年この時期にある式典の練習の一環だと頭ではわかっているのに、一瞬どきりとする。それからもういちど、壁にかけられた駐車場の絵に、目をもどした。
 
リュウ・ジーホンは、台湾のアーティストである。
リュウ・ジーホンは、アーティストで、台湾人である。


劉致宏 | リュウ・ジーホン
1985年台湾・新竹市生まれ。現在台北市在住。
2012年国立台北芸術大学大学院卒業
近年の主な個展:”SERPENT”, Mind Set Art Center, 台北 (2023) / “ミミズEarthworms”, nca | nichido contemporary art, 東京 (2022) / “SAND LAND”, NHCUE Art Space (National Tsing Hua University), 新竹, 台湾 (2020) / “SILENT & STILL” TKG+Projects, 台北 (2020) / “MONOCHROME”, Zou-no hana Terrace, 横浜 (2019) / “THE HIDING SONG”, apartment der kunst Munich, ドイツ (2018) / “PALUDES”, nichido contemporary art, 東京 (2018) / “NOVEMBER, Hsin-An”, HOWL Space‧T, 台南 (2016) / “L’OISEAU BLEU”, Galleria.H, 台北 (2016) / “SUMMER FLOWERS”, Taipei Artist Village, 台北 (2016) / “SHORT FICTION” 台北市美術館, 台北 (2014)
近年の主なグループ展:”Horizon Ablaze”, Taichung Art Museum, 台中 (2026) / “We Are Becoming”, Taiwan Contemporary Culture Experimental Center C-LAB, 台北 (2026) / 馬祖国際芸術島 (馬祖ビエンナーレ), 馬祖, 台湾 (2025 / 2023 / 2021) / “室礼の美”, 思文閣銀座, 東京 (2023) / “台湾ビエンナーレ”, 国立台湾美術館, 台中 (2022) / “エモーショナル・アジア - 宮津大輔コレクション × 福岡アジア美術館”, 福岡アジア美術館, 福岡 (2022) / “Interpreters’Screening Ⅱ-The Mysterious Island”, Hong Gah Museum, 台北 (2021) / “An Uncharted World”, MoCA Taipei, 台北 (2021) / “2021 YuGuan Island Art Festival”, 台南 (2021) / “YOU ARE ME”, Hsinchu City Museum‧Hsinchu, 新竹, 台湾 (2020) / “Displacement of True or False”, Taipei Artist Village, 台北 (2020) / “Island Tales: Taiwan and Perth”, Taipei Fine Arts Museum, 台北 (2019) / “Painting From Taiwan”, Eli Klein Gallery, New York (2019) / “Daisuke Miyatsu collection x Kasama Nichido Museum of Art - Synchronicity - Blending the quintessence od modern and contemporary art”, Kasama Nichido Museum of Art, 茨城 (2019) / “Metahistory”, TKG+ Projects, 台北 (2018) / “LADY DIOR AS SEEN BY”, Art Basel Hong Kong-Hong Kong Convention and Exhibition Centre, 香港 (2018) / “Harper's Bazaar 150 Years: the Greatest Moments”, Taipei 101 Mall, 台北 (2017) / “Very Period”, VT Art Salon, 台北 (2017) / “LADY DIOR AS SEEN BY”, Christian Dior Foundation, 台北 (2017) / “A Journey Far From Home”, galerie nichido, 台北 (2017) / “An Ode to Thirty”, Eslite Gallery, 台北 (2017)
レジデンスプログラム:EKWC - international artist-in-residence and centre-of-excellence for ceramics, オランダ (2021) / ARTSPACE,シドニー, (2016) / Changwon Art Hall, 釜山 (2016) / Pier-2 Art Center, 高雄 (2016) / 秋吉台国際芸術村 (2015) / Seoul Art Space _ Geumcheon, ソウル (2014) / Haslla Art Center, ソウル (2013)

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