坂本和也「Between Breaths」

坂本和也「Between Breaths」

2016 9.30 - 10.29

オープニングレセプション
9.30 (金) 18:00 - 20:00

©Kazuya Sakamoto
Press Release

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2016年9月30日(金)-10月29日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
レセプション:9月30日(金)18:00 – 20:00


この度、nca | nichido contemporary artは坂本和也による個展「Between Breaths」を開催いたします。
坂本和也は自身の趣味である水草の飼育(アクアリウム)を通して、生態系の構成要素のなかに人間社会や坂本自身を取り巻く環境との類似性を見たことから、近年一貫して水草をモチーフにして絵画を制作しています。複雑に絡み合いながら増殖していく多種多様の植物は、それぞれが強い存在感をもって画面いっぱいに痕跡を残します。本展では5mを超える大作と、最新作を発表いたします。


― 水中という絵画空間 ―

坂本和也は若い、いまだ有名とは言い難いペインターだ。

しかし、私たちは彼の絵画に注目する必要がある。なぜなら彼の絵画がすでに完成していることが明らかだからだ。それは「おおらかさ」と「苦しさ」の共存という、これまで誰も試さなかったタスクを極めたという意味でもある。

この時代を覆う閉塞感とは真逆の、解放のベクトルに向かって絵画が構成されている。彼が時代の困難さを感じれば感じるほど、筆は、絵具は、それに抗って、歓びを、のびやかさを、余裕を歌うだろう。彼が、この仕組みを発見したことは一つの苦難であり、かつ喜びでもある。それら両者は矛盾しない。

水草を描いたと説明される作品たちは、具象/抽象ないしは現実世界/内的世界という区分の中間、この「/」そのものとしてある。緑の絵具であると同時に植物でもある。複数のレイヤーがあるようで、ただひたすら平面的でもある。スペクタクルであり、なおかつアンチスペクタクルでもある。「/」というゼロ地点、判断不可能な地点、その場所にとどまることが、「おおらかさ」を召喚しうることを坂本は知っている。ただ、そこは水中であり、とても苦しい。

ロサンザルスに在住し、世界的に活躍する日本人アーティスト、曽根裕の知られざる絵画作品に椰子の木を描いた一連のシリーズがある。曽根はLAの自宅中庭から見える無名の木をモチーフにしている。年中ほぼ同じ気候をもつ土地で、微妙に変化しながらも代わり映えのしない椰子の木。それを描くという「日課」は、喜びの表明と苦行がほぼ等価な実践としてある。坂本の絵画の構成も極めてそれに近い。

それは、「ただそれをやる」という単純さに貫かれている限りにおいて可能なことだ。情報化社会と呼ばれる現在の状況下で、ただそれをやることがいかに困難か。しかし、それがどれほど悦ばしいことか。おそらく、彼はそんなことすら考えずに、ただそれをやっている。

ストイックだと言いたいのではない。ストイックさには、なにかへの対抗、抵抗という意味が付着している。そうではない。ただそれをやる、はストイックではない。坂本はただそれをやる。ただ、絵をやる。カンバスの中で呼吸を止め、水中に身を沈め、もはや彼には、絵筆が水草に変身しているのか、水草が手に絡まって絵筆を動かしているのか、わからない。私たちが目撃しているのは、そのような絵画なのだ。そこは水中だが、私たちは目を見開いて、それを見なければならない。


遠藤水城 (インディペンデントキュレーター / 美術評論家)


坂本和也(さかもと かずや)
1985年 鳥取県生まれ
2012年 名古屋芸術大学 美術学部洋画2コース 卒業
2014年 名古屋芸術大学大学院美術研究科美術専攻同時代表現研究領域 修了
主な個展:米子市美術館,鳥取(2017)*upcoming / ALA Project No9 Kazuya Sakamoto", ART LAB AICHI, 愛知 (2012)
主なグループ展:"nca new generation project – Sensing Body", nca | nichido contemporary art, 東京(2015) / "豊穣なるもの 現代美術in豊川" , 豊川市桜ヶ丘ミュージアム, 愛知(2015) / "アーツ・チャレンジ2015", 愛知芸術文化センター, 愛知(2015) / "Some Like It Witty", Gallery EXIT, 香港 他

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