Identity III -Annual Gallery's Collection Show-

Identity III -Annual Gallery's Collection Show-

2006 02.02 - 03.04

Press Release

Identity III
Part 1: 2006年2月2日(木) - 18日(土)
Part 2: 2006年2月20日(月) - 3月4日(土)

月-土 11:00-19:00 日・祝はアポイントメント制
nca | nichido contemporary artは、「Idneity」と題したグループ展を開催いたします。人間存在の意味の探求をテーマとし、2003年のncaオープニング展、2004年の第2回に続き、第3回目の開催となります。

私たち人間の「意識」という概念が誕生したのは、今からおよそ3000年前のことです。
意識が誕生する以前の人間は、右脳に囁かれる神々の声に従う「二分心」の持ち主で、彼らにより世界各地の文明は創造されました。
やがて、「二分心」は崩壊し、人間は文字と意識を得た代わりに神々は沈黙しました。
そして、人類が創りだした最初の意識の根源、イーリアスやオデュッセィアといった文学が誕生し、内なる声、自己存在「Identity」に気づきました。
人間は二度と戻れない線を踏み出したのです。

今日、メディアによってつくられた思考や解釈のプロセスは、批評的な大量な情報によって成り立ち、私たちは、以前は見えなかったものを容易に見たりアクセスしたり出来るようになりました。
果たして、私たちは情報や知識に捉われず、純粋に人間の創りだす芸術表現や相手の世界観に入っていくことができるのでしょうか?
もし、すべてのことに対し、このようにアプローチしていったら、何がリアルで、一体何が真実なのでしょうか?

現実世界において、知覚しうるすべてのものは、自意識のイコン(偶像)によるものです。
私たちが日常的に認識しうる世界は、すべて自意識の中に投影され、把握されています。
そして同時に、これは「意識」という足枷なのです。
私たちが内観する主観的な経験(絶えずついて回る無数の連想、希望、恐怖、愛情、知識、色、匂い、痛み、歓喜、苦悩や欲望といった内的経験)は、対象となるものや、人物、出来事を心の空間に置き、過去、現在、未来の感覚を獲得します。
思考やファンタジーは、「実際」の「客観的」世界には存在する余地がないので、すべては人間の内面世界に息づいています。
個人は、一時的に自分の内に在ることと、外で在ることの折り合いの中から「自己」を見出すのです。
自分にとって本物でリアルなものを、イメージによって内なる自己と結びつけ、かつて経験したことのない淵に足を踏み出すということは、意識的であることと、同時に、無意識的であること、つまり「非二元性」を経験するということです。

自分の存在を揺るがすような強い衝動や感動がもたらされた瞬間、私たちの内部で起こっている心の活動は速過ぎて、自意識はついていくことができません。
通常、私たちは過去の経験に基づいて、意識的に一般論を導き出します。
これまでの経験や知識、情報から得た基盤となっている意識が想起されるのは、私たちが感覚的に捉え振り返った後に限られます。
正しい結論にたどり着きながら、その根拠を示せないことがどんなにか多いことでしょう。
そして、自分自身が混乱しているということは正直に生きている証です。
嘘は良心の呵責から生まれ、不安は恐怖を生み出し、恐怖は恐怖を生み出します。
私たちそれぞれが抱いている恐怖は、逃げようとしても逃がれることのできない内面世界の真実です。
また、私たちそれぞれが抱きつづけている夢は、恐怖の裏側にあるかけがえのないファンタジーでもあるのです。
そして、人が持つアイデンティティは、私たちの目に見える世界において、自己を表現するものへと変貌します。
芸術家はそれを作品(生きた証)として開示しつづけるのです。

死は、純粋で透明感を伴う崇高な魂を意味しています。
生は、誠実さと偽り、嘘や欺瞞によって喜怒哀楽の感情のタペストリーによって繊細に織り成されています。
暴力やセックスは生の象徴である反面、死に一番近いイメージであるといえます。
相反する両極は密接で、愛と憎悪のような関係なのかもしれません。
「感じる」ということは意識してできるものではありません。
私たちは、感覚のパターンを何かに置き換え、自意識から創発される新たな関連を見いだし、それまでの自らの主観的思考を凌駕する心の鏡を再構築します。
人間は、過去からの脱却とIdentityの再構築を繰り返し、生と死の両極の暗闇に張り巡らされた人間のみが持ちうる「苦悩」というタイトロープを渡っているのかもしれません。
内なる声に耳を傾け、鏡を割るのも曇らせるのも、クリアーにしていく作業は、結局は自分以外にはできないのですから。

nca ディレクター 竹田 仁

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