ダヴィッド・クレルボ

ダヴィッド・クレルボ

2006 11.10 - 12.26

Press Release

Curators eye Vol.1
"David Claerbout / ダヴィッド・クレルボ"

開催場所 nichido contemporary art
会期 2006年11月10日(金)~12月16日(土)
営業時間 火-土 11:00-19:00  休廊 日・月・祝
レセプション 11月10日(金)18:00-20:00
*ダヴィッド・クレルボと天野太郎氏によるアーティストトークを行います。
(レセプション会場:nichido contemporary art)
ダヴィッド・クレルボ、あるいは現象としての世界
ダヴィッド・クレルボ作品は、常に「時間」と「物語性」が主要なテーマとしてまるで通奏低音のように貫かれています。これらのテーマを基に、クレルボは、生活世界の様々な現象に目を向けます。

クレルボは、美術を最初に学んだ時は、画家として出発しました。映像の作家として知られるクレルボですが、その画面構成には、画家としての、つまり絵画的な影響が色濃く残っていることがわかります。

ところで、クレルボの作品に立つと、人々はそれが絵画的写真であると感じます。なぜなら、時間の経過がない限り、それらのイメージは最初静止したように感じるからです。例えば、最初のアニメーションの作品「Ruuno, Bocurloscheweg, 1910」は、大きな木の傍に二人の人物が佇んでいる南オランダの風景を撮った観光ハガキを基にしています。まるで17世紀のオランダ絵画の風景画を思い出させるような構図ですが、木の葉だけが、風によって揺れていることに気がつきます。

クレルボは、フランスの哲学者ロラン・バルトの言葉を借りれば、「写真は不在の証明」として写真を捉えます。そして、自身も、すべての対象は、写真に撮影されることで死を宣言される、と認識します。このことは、写真に撮られる対象が、事実=歴史に回収されて行くことも意味します。1910年に撮影されたこの絵はがきの二人の人物は、恐らく今はもう亡くなっている一方、大きな木は、現在も尚そこにあり続けていることを、クレルボは、木の葉だけをアニメーションによって動かすことで表現しているのです。現在性を示す木だけを停止した時間に回収することを避けたのです。

1969年生れのクレルボは、1996年に現在にまで繋がる最初の作品を制作しています。2000年以降は、写真を基にした作品から実際の人物や風景を撮影する映像作品へと移行します。ただし、写真のイメージを基にしていた時からも、音楽を巧みに作品に取り入れるクレルボの姿勢に変りはありません。クレルボの映像作品に、明快な起承転結のあるストーリーや、ドラマティックな展開を期待することは出来ません。ただし、そこに音を採用することで、音に導かれる人物に、ある情動が働き、同時に、音楽が、その情動の変化を表す役割を果たします。

今回の「The Bordeaux Piece」は、12分で完結するフィルム64本から構成されます。ということで、実は、すべてを見終えるのに12時間40分かかります。12分ずつずれて撮影されていますが、実際には、同じカメラアングル、同じ風景が、繰り返されているので、ループのように見えますが、作品からその時間のずれを見分けることはほとんど不可能です。ここでは、現に微妙に変化している光=太陽だけが、同じように繰りかえされる映像に変化を与えているのです。

すでに指摘したようにクレルボの作品に、明快な物語を読み取ることが出来ません。むしろ、何も事件の起こらない平凡な日常生活を表しているようにも思えます。だからこそ、わたしたちは、クレルボの作品を見るとき、そこに現れる具体的な対象に何かしらの意味を見いだそうとします。それぞれの風景には、それなりに意味を持つ対象が現れますが、クレルボは、そのことより、現象としての世界を認識させるのは時間の変化と、実際に視覚として認識させる光を最優先します。このことを念頭に入れてようやくクレルボ作品との対話が始まるのです。

天野太郎

David Claerbout / ダヴィッド・クレルボ
1969年、ベルギー、コルトライク生まれ。現在アントワープにて制作、活動中。

近年の個展発表歴としてAkademie der Kunste, ベルリン、Dundee Contemporary arts Centre, ダンディー、イギリス、Van Abbemuseum, アイントホーフェン、オランダ、Gallery Yvon Lambert, ニューヨーク、2004年Kunstbau in Lehnbachhaus, ミュンヘン、ドイツ、Art Gallery of Windsor, ウィンザー、イギリス、Herbert Road Gallery、カンタベリー、イギリスなどヨーロッパを中心に多数発表している。また、2004年には横浜美術館にて天野太郎氏キュレーションによる「現代の写真Ⅲ ノンセクト・ラディカル」に出展。2007年にはCentre Georges Pompidou, espace315、パリにて個展を、CAB Centro de Arte Caja de Burgos,ブルゴス、スペイン、Galerie MIcheline Szwajcer,アントワープ、ベルギー、Kunstmuseum St. Gallen, Herzlija Museum of Contemporary artにてグループ展に出展予定。

天野太郎(横浜美術館学芸員)
1955年大阪府生まれ。 北海道立近代美術館勤務(1982-88年)を経て、1988年より横浜美術館学芸員として国内外での数々の展覧会企画に携わる。美術評論家連盟所属。

おもな企画展覧会として、1989年「ニューヨーク・ニューアート チェースマンハッタン銀行コレクション」展、1992年「ケネス・タイラー版画工房 版画芸術の饗宴」展、1994年「戦後日本の前衛美術」展、1995年「ムーヴィング・アウト ロバート・フランク」展、1996年「森村泰昌展 美に至る病」、1997年「現代の写真 I 失われた風景」展、1997-98年「ルイーズ・ブルジョワ」展、 1998年「イヴォン・ランベール・コレクション」展、1999年「菅木志雄」展、2000年「現代の写真 II 反記憶」展、2001年「奈良美智」展、2002年「ジャン=マルク・ビュスタモント」展、2002-03年「Black Out : Contemporary Japanese Photography」(国際交流基金/ローマ、パリ、東京を巡回)、 2003年「中平卓馬」展、2004年「現代の写真 III ノンセクト・ラディカル」、2005年には「第2回横浜トリエンナーレ2005」のキュレータを勤めるなど多数。おもな出版物に『ヌード写真の展開 横浜美術館叢書』 (共著:有燐堂、1995年)、『Kwon Boo Moon』 (編集・評論:Nazraeli Press、1999年)、2005など幅広く活動している

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